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「高校生文化と進路形成の変容」という共同研究(研究代表・T氏)では、二つの県の11校の高校2年生1375人を対象に、1979年(昭和54年)と97年(平成9年)の高校生の学校外での学習時間(塾・予備校での勉強を含む)が調査された。
この18年間に平均の勉強時間が917分から711分に減っているのは憂うべき事実であるが、それ以上に気になるのは、塾や予備校に通わない上に、家に帰ってから一秒も勉強しないという子が、13%から35%に増加しているのである。
もっと最近の傾向を見ると、東京都の調査では、中学2年生で家でまったく勉強しない子供が、92年(平成4年)には27%だったのが、95年(平成7年)には35%、98年(平成10年)には43%となっている。
ちなみに、94年(平成6年)から95年にかけて行われた国際教育到達度評価学会による大規模な調査では日本の中学2年生の平均勉強時間は2.3時間で世界平均の3時間を大きく下回り、調査対象の309ヶ国中日本より勉強時間が少なかった国はわずかに8ヶ国であった。
おそらく家で一秒も勉強しない層の多くは、大学に進学をしない生徒たちなのだろう。
K塾のクリニックテストでも下位層ほど学力低下が著しかったが、それ以下の層が確実この調査が行われた95年からたった3年の問に、家で一秒も勉強しない子供がこんなに急増しているのであるから、現在の日本の子供の勉強時間は世界の最低レベルと考えてよいだろう。
一つには、少子化とバブル期の定員増のために、大学入学はかつてと比べてはるかに広き門になっているし、その傾向が今後ますます顕著になるということがある。
現時点でも私立大学の2割が定員割れを起こしている。
また名門私立大学の経済学部でも、ある教授がこれからの経済学を学ぶために入試で数学を課してほしいと要望したら、それでは受験生が減るからと一笑に付されたという話も聞いた。
よほどの名門大学に入りたい人間を除くと勉強をしなくても、大学に入れる時代はもうすでに始まっており、この傾向は今後加速されていくのである。
もう一つの大きな問題は、ここしばらくの不景気などの影響で教育の投資価値が低く見積もられる傾向が強まってきたことである。
前述の国際教育到達度評価学会による大規模な調査では、日本の中学2年生で「数学が生活の中で大切だ」と答えた生徒は71%であったが、これは国際平均値(92%)を大きく下回り、調査参加国中最低の数字だった。
理科についても同様で「理科は生活の中で大切だ」と答えた生徒はわずかに48%で、この数字は数学以上に大きな差をつけて最下位の数字だった。
現実に、中教審(中央教育審議会)の委員と教育改革国民会議の委員を兼ねる某オピニオン・リーダーですら「社会に出て二次方程式を一度も使ったことがない」と勉強の価値を蔑み、また首相自らが官邸のホームページに掲載されたラグビーのH監督との対談の中で「知育より体育」と公言している国である以上、「勉強が大切」「理数教育が大切」という価値観を再建するには相当の時間がかかるだろう。
このような中で自然の流れに任せていては、ただでさえ世界最低の子供の勉強時間が減りつづけるのは確実である。
このように日本の一般の子供たちの学力低下は急速かつ深刻なものであり、また勉強離れも加速しつづけているが、まだトップ層は大丈夫だろうという安心感を持ちつづけている人が少なくないだろう。
私立中学受験にしても、公立学校の荒廃に伴って競争が激化し、大手の進学塾は小学校2年生くらいから受験準備を始めているなどという事態を聞くと、まだまだトップ層の競争は職烈だという印象を持たれても不思議でない。
しかし、なるべくレベルの高い学校に行きたいという子供たちの価値観が崩れた上にかつてと比べて子供が少なくなったためか、T大受験ですらも、競争は緩和されている。
予備校などの推定する合格者の最低点も、私が受験した当時(1979年ごろ)と比べて合格者の最低点が、15%から20%近くも低下している。
問題のほうはかつてと比べると易しくなっているというのが受験産業関係者の一致した見解であるにもかかわらず、である。
実際、1日5時間以上も勉強するとか、4時間しか寝ないで受験勉強をするなどという話はほとんど聞かれなくなった。
国立教育研究所による高校2年生の調査でも、95年から98年にかけて1週間の学校外の学習時間が2時間以内という人が大幅に増える中、週に20時間以上勉強するという層は、もともと3%くらいしかいなかったのに、98年の調査ではほぼ0になっている。
国際社会では、ものすごい勢いで、理数教育重視、試験重視、家庭学習重視の教育で子供たちの学力を向上させている。
私の見るところ、日本の教育は世界の趨勢とまったく逆行したものである。
現時点においても、日本の数学の授業時間は、先進国の中でも最も少ない部類に当たる。
諸外国では相当な理数教育重視政策を取っていることを考えれば、本来はこの時間を増やそうとするのが妥当な方向性だろう。
しかし、2002年(平成14年)の春から実施に移される新学習指導要領では、授業内容は3割削減され、授業時間は2割削減されることになっている。
これによって、たとえば小学校の算数から4桁どうしの足し算や引き算がなくなる。
1万円札のおつりの計算もできなくなるのだ。
また小数第二位以下の計算問題もやらなくなる。
円周率は3.14と教えるのだが、計算では「およそ3」が使われる。
分数についても、割る数と掛ける数が単位分数(分子が1の分数)の掛け算と割り算しか、日本の子供たちは学ばなくなる。
このような計算軽視のカリキュラムは考える力をつけるためだとされているが、一方でこうした考え方や図形の問題などをカリキュラムから削除してしまったため、抽象的な理解をよけいに妨げることになるという指摘が数学者から相次いでいる。
それでも、今回のカリキュラムは厳選された内容を、ゆっくりと行うのだから、子供たちの理解が進み、わかることによって勉強への意欲も増すはずだと文部省(現・文部科学省)は主張する。
今回の新指導要領のもう一つの目玉は総合学習の導入である。
総合学習は、「教科の枠をこえて特定の主題に沿って総合的に学習を組織する教育課程・方法」とぎれる。
これによって、学習に対する意欲や興味を高め、自ら学ぶ力を養おうというものだ。
イギリスでかつて行われたトピック学習は、まさにこの考え方に基づいたものといってよい。
たとえば、「雨」をトピックに選んだ場合は、雨がどうして降るのかという理科的な内容、雨水が生活にどう関わっているかという社会科的内容、雨量の計算などの数学的内容というカリキュラム横断的学習を体験的活動を取り入れながら行おうとするものだ。
確かに魅力的なものであるが、結論的には子供の学力は向上しなかった。
むしろ、それに伴って体系的な知識教育が軽視された結果、基礎的な数学や読み書きも覚束ない若者が数多く労働市場に送り出されることになって社会問題の元凶となったのである。
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